Autodesk University Japan 2012
Autodesk University Japan 2012 開催レポート

デイブ・ローズのパワフルなプレゼンテーションに続いて、オートデスクのテクニカルスペシャリストたち5名による最新製品のデモンストレーションが行われ、会場は一気に沸き立ちました。この熱気を受けて、基調講演のクライマックスというべき盛り上がりを見せたのが、リチャード・アデルトン氏のプレゼンテーション「無限の創造の可能性」です。アデルトン氏は、スウェーデンに本社を置く世界的な高級車ブランド・ボルボ社でSenior Digital Sculptorを務めています。今回の講演は、同氏がインテリアデザインを担当した2011年の上海モーターショー向け新製品「Concept UNIVERSE」とフランクフルトショー向けの「Concept YOU」のデザイン開発の流れを紹介する、エキサイティングなプレゼンテーションでした。

「Concept UNIVERSEにおける私たちの狙いは、次世代の中国市場をターゲットとする高級セダンの設計・製造でした。最初のスケッチを2010年10月に描き始め、翌年3月に上海へ物理モデルを出荷するまで、約6カ月に渡るプロジェクトとなりました。UNIVERSEの特徴的なエクステリアは、実は“コートの胸に赤ちゃんを抱えた男性”の写真からインスピレーションを得たもの。クルマのショルダーラッピングが守るように包み込むアイデアです。また、中国ではフロントエンド全体が重視されますが、今回はこのフロントエンドで宇宙を、リアエンドで夕日を表現するというリクエストも貰っていました。一方、インテリアについては、運転手付きのクルマに乗る人をターゲットとしたことから、通常と逆に後部座席を重視しているのが大きな特徴です。このようなテーマのもと、私たちはAutodesk Aliasを用いてモデル開発を開始しました」

アデルトン氏のチームは、早い段階からモデルを分割して個々のパーツをどう製造するかディスカッションを進めました。通常、こうした作業は後工程で行われますが、今回は時間が限られていたため前倒しで進められたのです。同じ理由からインテリア確認用のシースルーモデルも最小限のインテリアで作られましたが、実物のモデルではフロアを上部シフトギアの周辺下に置いた方がインパクトがあるという判断から、Aliasでの作業はインテリア全体が制作されました。後に行われた広報用のレンダリングアニメーション制作においても、このインテリア全体を作ることが重要なポイントとなった、とアデルトン氏は語ります。さらにフルサイズのモデルもフォームで削りだされ、エクステリアの寸法比等のチェックに使われました。そして、このモデルも後にフロントリアのテスト等で役立てられたのです。
「デジタルデザインのメインツールはAliasでしたが、同時にAutodesk Showcaseも大いに活用しました。私たちはShowcaseを使って週2回ペースでデザインレビューを行い、上層部へステイタスをリポートしてモデル評価としていましたが、ワークステーションや大型ディスプレイパネルでモデルを表示する際にShowcaseはとても役立ちました。もちろんこれで作ったアニメーション等も大いに活用しましたし、色や素材の組み合わせのチェック等にもとても便利に使いました。今回のような上層部向けのプレゼンは全てのプロジェクトで行うものではありませんが、全く新しいコンセプトの場合は社内に対してもアピールする必要があり、そのためには私たちもいろいろな方法を駆使しなければならないのです」

手描きのスケッチからAliasによる3D CGモデル、さらにShowcaseのアニメーションやフルサイズのモデルの写真まで、多様なビジュアライゼーションを駆使するアデルトン氏のプレゼンテーションは文字通り観客を魅了しました。やがて同氏が語るConcept UNIVERSEの開発ストーリーも佳境を迎えます。Concept UNIVERSEのデザインは2010年に完成し、物理モデルがボルボコンセプトセンターで製作されました。同センターはショーカーなどボルボの特別車輌製作に豊富な経験を持ち、作業はきわめてスムーズに進みました。アデルトン氏が映写した製造プロセスのビデオからも、そのスピーディな作業の流れが伺えました。
「ショー直前にスタジオ撮りしたショーカーの写真をご覧ください。リア部分の“日の出”のイメージが実現されています。またインテリアでは、前部から後部へかけてウッドのデコレーションを暗い色合いから明るい色へグラデーションさせ、運転手がより運転に集中し、後部座席の乗客はよりリラックスできるようにしています。また、上海の歴史を踏まえた磁器製の中国的デコレーションも追加しました。結果として、UNIVERSEは上海モーターショーで非常に高い評価を得ることができました。来場者の反応も上々で、来場者へのアンケートの「このクルマを現す4つのフレーズ」という問いへの答えは「優雅、エレガンス、頑丈さ、パワフル」が大半を占めました。「適性価格は?」という問いには多くが8万ユーロ、中には12万ユーロの声もあがり、これもボルボにとって大きな喜びとなりました。私たち自身、最も高価でも6万ユーロと設定していたのですから!」

アデルトン氏のプレゼンテーションは、さらにConcept UNIVERSEの最終段階へと進みます。2011年3月の上海モーターショーの成功を受け、同年9月開催のフランクフルトモーターショーの準備が命じられました。つまり中国向けのUNIVERSEを、わずか2カ月でヨーロッパ市場向けに生まれ変わらせることになったのです。新しいフロントエンドにヘッドランプやグリルエンブレム等々、いくつものディティールが一新され、インテリアは完全に機能することが求められたほか、フロント・リアにタッチスクリーンを追加するなど最後の最後まで改良が続けられました。結果、Concept UNIVERSEは、フランクフルトでも再び大きな喝采を得たのです。その鮮やかなサクセスストーリーに、AUJの会場においても大きな拍手が贈られたのは言うまでもないでしょう。
「並行して開発が進められたConcept YOUの方も、フランクフルトではConcept UNIVERSE同様にとても高い評価を獲得することができました。上海と同じように適正価格を問うたアンケートでは8万ユーロという答えが大半を占めるなど、文字通りライバル車を圧倒するような人気を集めたのです。実際“このクルマが普通の製品として生産されるなら、次に買い替える時はこれにする”という声もたくさんいただきました。これはフランクフルトのモーターショーの会場の写真ですが、ご覧のように非常に多くのお客様が集まって大変でした。人垣でクルマが見えないのですが、この向こうに置かれているのです。クルマの回りには美しい家具やiPadも配置され、来場者の皆さんにこれでブログやツイートを書いてもらうなどの工夫をしています。こうした他社にはない新しい試みも含め、来場者の多くに評価していただけたと考えています」

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