Cトラック最後のセッションは、建築業と製造業相互のBIMデータ活用の可能性を探るパネルディスカッションです。パネリストには竹中工務店の森元一氏と東芝エレベータの平手和夫氏が招かれ、モデレータはIAI代表理事の山下純一氏が務めました。Cトラックのまとめに相応しい、活発な意見交換が行われました。熱のこもった3氏のやりとりから一部を抄録します。
山下氏 建物に取り付けるエレベータの製作では、やはり製造側と建設側データのやり取りが行われるんでしょうね?
平手氏 ええ。そのため現在、当社では建築系の図面業務をBIM化し、お客様と3D連携する取組みを進めています。エレベータは建物内に据付ける設備なので、建築側といろいろ調整しながら竣工まで持っていかなければなりません。だから建設会社との協調がとても重要なんですね。そこでこれにBIMを使えば生産性を向上できると考えたんです。双方が精密な3Dモデルを作って重ね合わせれば、一目瞭然で潜在的問題が見つかります。これを普段からやれれば、互いに問題を早期解決してフロントローディングに繋げていけます。
山下氏 そのような取組みの実例はあるのですか?
平手氏 展望用エレベータの事例ですが、こうした物件の場合、製造系メカのモデルを組み込まないとリアリティが出ず、問題も見えてきません。そこでAutodesk Inventorの製造系モデルで“カゴ”のデジタルモックアップを作り、Autodesk Revitにインポートして建物との関係を見るようにしています。さらにプレゼンではAutodesk Navisworksも使うなど、異業種のソフトを併用しBIMを効率化しています。今回はゼネコンさんが作った建物モデルの中に、精密なエレベータのモデルを作って入れ込みました。3Dなら問題点も素早く見つかりコミュニケーションもきちんと進みますね。さらにこの事例ではモデル内をウォークスルーしてもらって合意形成を図りました。デジタルモックアップを活用して、工場での製作コストを削減するというメリットも 生みだせました。
山下氏 建設業の方はいかがですか?
森氏 ものづくりのBIMモデルということで、従来の統合モデルに製作物の情報を統合する必要が生まれていますね。製作側のデータを建物側の情報とを重ねて調整していく形ですが、オートデスクの複数のBIMソフトが共通で使える、Autodesk Building Design Suiteを使えば、AutoCADにRevit、製造系の3D-CADのInventor、重ね合わせや干渉チェックができるNavisworks等が1ライセンスで使えるので非常に効果的ですね。Inventorのビューの操作はRevitと全く同じで違和感なく使えます。しかも製作物のデータをそのまま書き出し工作機械メーカーにも流せるし、作ったものはパラメトリックに動かせます。InventorとRevitを密接に連携させることで、ものづくりBIMが可能になると思います。
山下氏 そうなると相互のやり取りがますます重要になりますが、そのあたり製造側からも要望があるのでは?
平手氏 要望というか……BIMによるコミュニケーションで重要なのはBIMモデルの運用です。双方が常に最新の情報を持ってBIMを運用できれば理想的ですが、実際にはどうしてもタイムラグが生れます。BIMモデルを貰ってもリビジョンが古かったら、一生懸命に3次元でやってもなかなか精度が上がりません。
森氏 そうですね、重ね合わせと干渉チェックが簡単にできるNavisworksで重ねた時点で、重ね合わせるデータがすでに古くなっている可能性があります。アクティヴに重ね合わせができればいいなと私も常々思っています。
山下氏 本当は建築と製造の両者が1つのモデルを共有し、それを作り合っていく環境がベストなんでしょうね。
森氏 鉄骨等では既にネットワークを組んで互いに直接モデルに触る試みも始まっています。将来は他の部品でも可能になるのではないでしょうか。
山下氏 こうなるとBIMもクラウドの考え方が必要になりますね。建設業は多くのサブコンや製造業と一緒にモノを作りますが、1社がモデルを持つとどうしてもそこから流す形になる。だからモデルはクラウドに置けばいいわけですが、これも簡単ではありません。やはり会社同士1対1の間ではなく、産業と産業間で調整したいですね。
平手氏 エレベータとゼネコンではなく、設備全般と建設全般で「1つの建物を作る」視点で仕事をする。 私たちもそのモデルにアクセスしてバーチャルな据え付けを行う――というのが理想ですね。
山下氏 森さんはいかがでしょう。
森氏 以前、平手さんとお仕事をさせていただいた時も、CADのバージョン違いで悪戦苦闘しましたね。実際バージョンが違えばデータの出し方が違い、試行錯誤することになります。BIMの共通フォーマットであるIFC形式がうまく利用できるとベストなんですが……。
山下氏 IFCにも欠点はありますが、現実にはいろんなCAD製品とやりとりする必要がありますからね――。平手さんもゼネコンとのやり取りで困った経験がおありでは?
平手氏 基本的にいつも困ってます(笑)。とにかくデータ交換はメーカーの1番の悩みで、特にBIM案件ではまずどうやってデータ交換するかやモデルの共有の仕方から始めています。製造業では既にInventorと他のCADがダイレクトにデータ交換できる環境が整っているので、建設業も早くネイティブデータでやれるようになってほしいですね。
森氏 確かにBIM案件では、どのCADを使いバージョンはどれか調整することと、2次元/3次元の範囲を決めることから始めていますね。
山下氏 現状ではBIMも「お互いに何とかできる」同士だけで使われている感じですが、本当は産業間で互換性のある情報共有ができれば、BIMのの効用が出てくるはずです。そこではやはりクラウドの活用がカギになるでしょう。IAIもIFCを頑張りますが、それだけでなく、互換性を確保したBIMクラウドを通じ建設業と製造業が手を組むという風になっていくといいですね。この点について一言ずついただけますか。
森氏 今日お話をうかがって、エレベータについては3Dで描いてもらえれば図面を出さなくても承認できるのではないか、と感じました。ゼネコンはエレベータの細かい機械までチェックしているわけではないし、寸法や収まりが確認でき、意匠的な部分を分かりやすくプレゼンしてもらえれば、図面なしでモデルで承認することも充分可能です。ぜひ今度やってみたいですね、期待しています。
平手氏 やはりBIMの中でも2Dと3Dを並行して動かすと非常に人間のコストもかかってしまうので、検討段階だけでも3Dでやれたら本当に素晴らしいと思います。どうしても図面が必要な最終工程は図面を使えばいいわけで、それ以外は図面なしのデジタルモックアップだけでも、協調しながら上手くやればやりきれる部分も多いはずです。特に先ほどのInventorのようなツールでパラメータをきちんと使ってやれば、そのままものづくりに繋げることもできるでしょう。それだけの技術はあるわけですし、後は「どうやるか」の問題ですから、やはりしっかり連携してできる環境作りが大切ですね!