ACPEへの取組みについて語ったのは、TAKシステムズ 東京支店の中嶋由美子氏です。TAKは竹中工務店のグループ企業で、建築の設計・施工に関する作図などを担っている会社です。まだ手書きの図面が主流だった1990年に設立されて以来、常にCADによる作図と設計作業の効率化を進めてきました。
ACPEはAutoCAD Productivity Enhancementの略で、オートデスクが提供する、CAD業務における生産性の向上を図るプログラムです。「設計現場ではみんながAutoCADを使っているので、使えて当たり前だし使いこなしていると思いがち。でも実際は、紙上の作業をそのままパソコンに移行させただけで、CAD独自の機能を使いこなしていないことが驚くほど多い」と中嶋氏は言います。それは例えば、「Excelで表を作っているのに、合計値は電卓で計算し、数値を手入力するというのと同じことです」。この問題を解決して生産性をアップするためにTAKが利用したのがACPEでした。
ACPEのプログラムには、AutoCADでどのような作業環境を用意するか考え、そのための道具を作り、そして人材を育成するという3つのゴールが設定されています。具体的には、第1のゴールが新しいCAD標準の決定です。これは企業内でCADを使う際のルールやテンプレートを決め、どのツールを用意して、どのように使用するかを決定する作業です。今まで使っていた機能や設計方法を分析し、オートデスクとCADマネージャたちがディスカッションを通して決めて行きます。ゴール2が、新しい作図環境に必要なツールの作成です。標準スタイルやツールパレット、テンプレートを整備したり、シートセットやよく使うダイナミック ブロックを作成します。第3のゴールが、その環境を運用していくCADマネージャの育成と、作図担当者のトレーニングです。ちなみに実際のプログラムの運用ではCADマネージャがツールの作成に当たるため、CADマネージャの育成が先に来ることになりました。。
ACPEプログラムを実施したいと考えた最初のきっかけは、AUJ 2011での講演でした。とくに住友電設による図面作成時間を従来から60%削減したという報告です。さらに他のACPE関連セッションも受講。効率化のインパクトが大きかったことから、さっそく会社に帰って事例を紹介し、CADに関する作業の効率化に取り組みたいと訴えました。すると、設計マネージャも同じようなことを課題と感じていたことが発覚。「せっかくのCADを紙図面に書くような使い方しかしていない。もっと工数を下げて効率化できないか」という相談を受けました。これらをきっかけに、ACPEへの取り組みへと進んでいきました。
ACPEプログラムの本格実施に入るための準備には、半年ほどかかったということです。まず図面のサンプルをオートデスクに提出。自分たちが書いている図面を分析して、ACPEを行うのに適しているかを判断してもらいました。続いて、CADマネージャ4人を選出。これはCADの機能に詳しいということより、全体をマネジメントできることを重視して選びました。
いちばん時間が掛かったのが、マスタースケジュールの調整です。何をいつ誰がどのように行うのかを詳細に決めなければならなかったからです。そして、決めたとはいえ予測不可能な部分もありました。これらを実施するのはすべて、AutoCADを熟知した人ではなく改めて勉強するTAKの社員だからです。またメインの業務と並行してスケジュールを進めていくため、自分たちがどこまで勉強してツールを作れるようになるか読めないところが多くありました。これらをふまえながら、ACPEをスタートすることが決まりました。
正式なオートデスクとの契約によるマスタースケジュールは4月から始まりました。まずCADマネージャのトレーニング、そしてCADマネージャによるツールの作成およびテストへと進めている段階です。進行中も常にCADマネージャ同士でよりよいCAD標準を運用できるように議論を重ねています。例えばCADマネージャ講習終了時点では、学習した内容をふまえて、図枠はシートセットにするより外部参照のままがよいのでは、いや実際に作ってみなければそれぞれの方法の良しあしも判断できないからやってみるべきだなどといった相談をしました。またCADマネージャの講習が終わった時期はメンバーの2人が多くの業務に追われていました。そこで忙しい時期は進行をいったん止め、6月から全員で集中して取り組むという風に柔軟なスケジュールの組み替えも行っています。
現在、標準テンプレートの作成から始まり、シートセット、ダイナミックブロック、その利用環境を整えることを行っています。今後はまだ残っているCAD標準に必要な道具を完成させ、オートデスクによる運用マニュアルの作成、それを実際のプロジェクトで試行し、その結果をフィードバックした上で社員全体の教育を行う予定です。
また、社内に自分たちの取組みを知ってもらうことにも力を入れています。プログラムの準備段階なので4人だけが作業している段階ですが、最終的に取り組むのは社員全員なので、社内の関心を高めることが大事だからです。そこで、オートデスクに月例の勉強会でAutoCADの各機能についてレクチャーしてもらいました。またその中で実施したのが、ダイナミック ブロックのアイデアコンテストです。業務に必要なダイナミックブロックを、自分たちで提案してもらう取り組みです。「これは今後も継続してやっていきたい。初めて使うツールになじんでもらうとともに、使っていくことによって新しい使い方のアイデアが生まれてくるはずだからです」。
「あらためてACPEは何なのかと考えてみると、自分たち自身で効率化のための道具を作り、管理し、社員を教育するものだと思います」。最初はオートデスクがツールや仕組みを作って提供してくれればいいのにと思いました。ですがACPEは誰かに作ってもらった道具を使うといった、即席の対応で効果が出るようなものではなく、種をまくための土壌を作る作業、つまり今後も自分たちに必要なものを自分たち自身で作り上げる技能を身につけるものだと理解しています。もうすぐマスタースケジュールで決めたACPEの期間は終了しますが、終わった時にスタートラインに立つのだと思うと中嶋氏は述べました。
生産性向上の目標値は、初年度は15%減、次年度は30%減としています。「最初はどうしても新しい仕組みを運用するため効率が落ちるでしょうが、継続して安定した運用を進めていければ、ACPEが狙いとする効果が出てくると思っています。成果は今後の発表を楽しみにしていただければ」と結びました。