Autodesk University Japan 2012
Autodesk University Japan 2012 開催レポート

午後1時。ランチタイムが終わり、いよいよAUJのメインメニュともいうべき午後のセッションが始まります。AEC(建築・建設)分野を対象とするCトラックのテーマは、もちろん「BIM(Building Information Modeling)」。いよいよ日本でも導入&活用が本格化し始めたこのBIMに関して、今回は世界からキーパーソンというべき方たちをお招きし、多くの参加者を集めました。そして、この熱気あふれる4つのセッションのオープニングとなったのがオートデスクの2人によるKeynote講演です。まず登場したのはロブ・マルキン。日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドのAEC担当営業部長としてAECの販売促進に力を注いできたマルキンは、参加者へ厚く感謝を述べるとともに、Cトラックのプログラムを簡潔に紹介していきました。
「今日こうして皆さんにお会いして、私たちのソリューションをご紹介できることをたいへん嬉しく思っています。ひとつ気付いたのですが、ここ数年、AUJには世界中から多くのお客様をお招きするようになっています。特に今回はフランスの世界最大級の建設会社やオーストラリアの建築家を招き、もちろん日本からも大手企業の皆さんに来ていただきました。こうして世界からスピーカーをお招きしたのには理由があります。いまや私たちの日本のお客様も、アジア、ヨーロッパ、北米など世界各地のプロジェクトで厳しい競争に参加されることが増え、しかもそうしたプロジェクトではBIMが参加要件の1つとされることが多くなっています。そこで午後はより有効に時間を活用し、各国の最新のBIM状況を掴んでいただける内容と自負しています。まずは当社のニコラス・マンゴンを紹介しましょう!」

「コンニチハ、私ガにこらすデス!」。マルキンの言葉に応えて登壇したニコラス・マンゴンは、満面の笑みで日本語の挨拶を述べました。オートデスク社内で “Mr.BIM”の愛称で知られている彼は、まず建築・建設業界で扱われているさまざまなトピックの中から重要なトレンドをピックアップし、この業界の“いま”を概観していきました。世界各国で公共工事におけるBIM義務付けが進むなか、マクロ経済の状況は悪 化し国内外で競争が激化していること。またサステイナブルなデザインが求められると共に改装改築分野が拡大していること。そして、こうしたなか、クラウドコンピューティングやモバイル等のホットトピックな技術は、BIMに対してどのような影響を与えるのでしょうか? マンゴンは歯切れの良い口調で語り始めました。
「まずBIMについてお話ししましょう。BIMを理解する上で重要なのは、BIMにおいてプロジェクトのデータが常に一貫性を保ち、ライフサイクルを通じて調整され続けるということです。かつては設計から施工、管理運営とプロジェクトのステップごとに情報が失われていましたが、BIMによりデータはライフサイクルを通じて一貫して再利用できるようになったのです。 もちろんBIMを使うことでコストも環境負荷も抑えられるようになります。最近の調査によると、BIMのソフトウェアに関する市場は16億ドル相当。しかも8年後にはこれが60億ドルまで拡大するとされています。かなりの成長市場ですが、間違いなくこれが現実なのです。今日はこのようなBIMの現状に関して、設計、建築、オペレーション、そしてクラウドといった観点からお話していこうと思います」

こうしてマンゴンは建築プロジェクトのフェーズに沿い、BIMの「いま」を語っていきました。スタートはもちろん設計段階のBIMです。10年前にオートデスクが買収したRevitは、3D建築モデルから自由に図面を切り出せるシステムですが、その後、設計ツールや分析ツールなどさまざまな要素が追加されてきました。さらに新しく概念設計のためのツールも追加され、より早い段階で日照やCFDなど多様な解析を行って素早く意思決定できるようになっています。詳細設計のステップにおいても、さまざまなモデリングや構造、機械、電気等々まざまな設計作業が1つのプラットフォームで進められるのです。重要なのはこの点で、これにより各分野の情報や知識が、共通のプラットフォームに統合され自由に活用できるようになるのだ、とマンゴンは言います。
「統計によると、アメリカでは毎年170万人もの人が病院で院内感染し、うち10万人もの方が亡くなっており、そのために必要となる保険等のコストは330億ドルにも達しています。しかし、たとえばRevitのCFD解析ツールを使えば、簡単に病院のクリーンルームの換気を予測できるでしょう。そうすれば院内感染も抑えられるかも知れないのです。このように設計の初期段階で使える解析技術は、多くのお客様にとって重要なカギになるはずです。それは中国でも同じです。中国ではBIMを使わないと言う方もいますが、先日訪問した中国の大企業では、今後5年間のうちにプロジェクトの80%はBIMを使うことになる、と言っていましたよ。……建物自体が複雑なものとなっていくなか、もしBIMがなかったら、どうやって発注者にこうした建物の性能を理解させられるでしょうか。もうすでに、それらはBIMなしでは不可能になっているのです」

続いてマンゴンは、鉄骨や各種設備等の製作、そして建設会社による施工、さらにはメンテナンスと運用管理におけるBIM活用に話を進めました。BIMモデルのデータを基に鉄骨や設備用のパイプ等を製作する製造現場の例や、次々とBIM導入を進める世界の大手建設会社のエピソードが紹介されました。特に後者に関しては、オートデスクが新たに買収したVela Systemsのモバイル現場管理ソフトが紹介され、このVelaのシステムが「施工現場の仕事を大きく変える」と語り、その言葉に会場は大きく沸きました。さらにメンテナンス・運用管理分野における話題としては、現在オートデスクがリサーチを進めている複数の技術/企業が紹介され、さらに世界最大級のモバイル通信企業であるチャイナモバイル社のスケールの大きな取組みの事例が参加者たちを驚かせました。
「すでに私たちは次世代BIMを実現するクラウドベースのプラットフォーム Autodesk BIM360を発表し、クラウド技術を活用した一連の新サービスの提供を始めています。もちろんクラウドコンピューティングでは計算能力も拡大し、たとえばレンダリングも10倍速くなるでしょう。このBIM360こそ、私たちがクラウド技術を建築ビジネスのライフサイクルへ提供していくための第一歩であり、最終的に私たちはこのライフサイクル全体をカバーしサポートしたいと考えています。いまや重要なのは、皆さん自身が何をしたいか、であり、この技術をどう使うか、なのです。――選択肢は2つあります。一方ではBIMの無い世界で今まで通り2次元で紙を使ってやっていく方法。そしてもう一方は3Dの世界で、デジタルにあらゆる情報へアクセスしながら進めて行く方法です。選ぶのは皆さんです。――これが私からの今日最期のメッセージです。皆さん、BIMへ移行する準備はできていますか?」

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