Autodesk University Japan 2012
Autodesk University Japan 2012 開催レポート
混乱を革新に変える:新たなマインドセットとツールセット

グレスパン社長の呼びかけに応えて登場したデイブ・ローズは、会場を埋めつくした観衆に対して、まず古いダイヤル式の電話器さんや昔懐かしい町の雑貨屋の写真を見せました。そして、このような電話やお店が時代の主流だった「古き良き時代」が大好きだった、と語り始めました。そのころの世界は、私たちが理解することができ、私たち自身の手でコントロールできるものだった、と彼は言います。しかし、そんな古き良き時代は疾うに失われ、もはや二度と戻ってこない、そう断言しました。シンプルな時代は終わって世界は大きく変わってしまい、いまやそこには、極限的なまでの複雑性に満ちた世界が到来しているのだ――そんなショッキングな言葉で彼のプレゼンテーションが始まりました。ローズは語ります。
「こうした複雑性に関する理論の研究者は、このような現代の世界を4つの頭文字「VUCA」を使って表現しています。すなわちVolatile(不安定)、Uncertain(不明確)、Complex(複雑)、Ambiguous(曖昧)です。そして、これらの巨大な複雑性を生みだしている変革と破壊は、いまや企業や職業、産業にも大きな変化をもたらし、時にはそれらを消滅させようとさえしています。実際、それらの幾つかはすでに皆さん自身にも影響し始めているはずです。遅かれ早かれ、これらの破壊的な大変革は、私たちすべてを直撃することになり、誰もそれを避けることはできません。――そこで今日、私はこの新たな複雑性の波とどう向き合うべきなのか、そして、この巨大な破壊と変革という“災い”をいかにして“転じて福となす”ことができるのかについて、お話ししていきたいと思います」

私たちが直面しようとしているこの“破壊的な変革”には、3つのトレンドがある、と言葉を続けました。その一つ目はDigital Fabrication。すなわちコンピュータ制御された機械による製造工程です。このDigital Fabricationにより、宇宙空間やバイオナノなど全く新しい製造の世界が切り開かれようとしています。続いて挙げられた2つ目のトレンドはAmbient Intelligence。環境知能と呼ばれるそれにより、知性を備えた場所やモノがデータストリームでスマートなシステムと繋がり、“見える世界”を大きく拡張していくのです。このAmbient Intelligenceについて、ローズはナイキプラスやサンフランシスコのパーキングメーター等の事例を引いて紹介しました。さらに最後のトレンドとして挙げたのがInfinity Computingでした。
「Infinity Computing、すなわち無限のコンピューティングです。この無限のコンピューティングは、私たちは現在のデザインプロセスを加速するだけでなく、将来的にはデザイン自体の意味さえ変えてしまうほどのインパクトを秘めています。今までのコンピュータに対する考え方は否定され、もはやそれは貴重なリソースなどではないと、私たち自身が頭を切り替えることを求められています。コンピューティングはいまや無限のリソースとなり、圧倒的にパワフルで、そのコストは限りなくゼロに近づいています。しかもユビキタス化により、私たちはいつでも何処からでもそれにアクセスできるのです。強力かつ安価に、スケーラブルになったそれを使い、私たちはいつでも何処でもより生産性の高い仕事ができるようになったのです」

このような破壊的変革をもたらす3つのトレンドに、では、私たちはどのように対応すべきなのでしょうか。ローズの答えは「よりスマートになること」でした。増大し続ける世界の複雑性に対向できるだけの、より高度な知性を備えること。これこそが全てのカギだと言うのです。もちろんそれを獲得するのは容易なことではありません。そもそも自然な進化を待っていたのでは、事態の変化に追いつけません。しかし、幸いにも人類は思っていたよりずっと早く、それも全く新しい形で高度な知性を手に入れようとしているのだ、と言います。それがクラウドコンピューティングとクラウドソーシングという新しいテクノロジの出現です。この2つにより、人類の新たな進化が始まる、と語ります。
「刻々と迫りくる未来のスピードと複雑性は日ごとに増すばかりです。しかし、同時にそこにはかつてない全く新しい可能性も潜んでいます。私はもちろん皆さんもまた、その未知の可能性に胸を躍らせてらっしゃるのではないでしょうか? なぜなら、ここまで私が語ってきた未来を想像し、デザインして創りあげていくのは、今日ここにいらっしゃる皆さんにほかならないからです。今回のAutodesk Universityは、そうした全く新しい可能性を考える大きなきっかけになってくれるに違いありません。破壊と変革に満ちた複雑きわまる時代にこそ、真に偉大な企業や偉大な人物が生まれるのです。皆さんもぜひ、私たちとともに、この新しい可能性に挑戦していこうではありませんか」

もちろんこの「挑戦」にはさまざまな支援が必要になる、とローズは言葉を続けます。特に急速に拡大している複雑性に対抗するためには、人類はもっともっとスマートに、賢くならなければならないのです。そして、人の能力を拡大するベストな方法は、今も昔もツールの活用です。だからこそいま、“道具”――ヒトの能力を大きく拡張し増幅する“ツール”の存在が重要性を増している。実際、こうしたツールを創りだし使うことが、人間という種を特徴づけている重要な能力のひとつなのは間違いありません。それは歴史を振り返ってみても明らかです。中世期のコンパスやアポロ計画で使われた計算尺等の例を引きながら、彼はそのことを説明しました。
「私たち人類は道具を作りだし、使うことによってこの世界を変えてきました。そして、私たちオートデスクの仕事は、皆さんのために道具を作ることです。すでに私たちは、このように複雑性が進んだ時代に応える新たな世代のツールを生み出しつつあります。それは、皆さんが新しいアイデアをより深く探求してこれをカタチにし、またそのデザインがどんな外観と機能とパフォーマンスを持つか理解させてくれるのです。あるいは画期的なコラボレーション、コミュニケーション、コーディネーションを実現し、あらゆるプラットフォームの境界線さえも消してしまうでしょう。さまざまな複雑性を、皆さんはもはや怖れる必要はありません。今日ここに、最もパワフルなデザインツールが揃っているのですから。まさに今日、皆さんはこれらのツールをどう使い、そして未来をどう創造していくか――わくわくしながらお考えになるに違いありません!」

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