Autodesk University Japan 2012
Autodesk University Japan 2012 開催レポート

CIMで土木分野の生産性向上を目指す

「CIM(Construction Information Modeling)という言葉は国土交通省が作った造語です。建築分野のBIM(Building Information Modeling)を模して作ったもので、それを土木にも適用できないかということで、今年に入ってから本格的な取り組みを始めました。
今日はCIMについての国交省の考えや、どのようなスケジュールで導入していこうと計画しているのかについてお話ししたいと思います。」と多田氏は語り始めました。

建築分野で導入が進み、成果を上げているBIMとは、コンピュータ上に3次元建物情報モデルを構築し、3次元の形状情報とともに室の名称や仕上げ、材料・部材の仕様・性能、コスト情報などを「属性情報」として併せ持たせる設計、施工管理手法です。

BIMの活用によって設計から施工、維持管理に至るまでの建築ライフサイクルのあらゆる工程で効率化につながります。国際的に、試行プロジェクトが数多く実施され、国際標準化も進んでいます。民間建築のほか、公共建築でも国交省の官庁営繕部がここ2年ほどBIM導入の試行を始めており、土木分野より先行しています。

この手法や考え方を土木部門に応用していこうというのが、CIMです。計画、設計、施工、維持管理という建設生産プロセスの観点から、ICT(情報通信技術)を核として施策や要素技術を統合して計画から維持管理までのトータルマネジメントを実現し、建設生産システムを改革していくのがCIMの目標なのです。

土木分野では少子高齢化社会への対応や生産性向上、労務環境改善、死傷事故の解消といったことが課題になっています。CIMの導入のねらいは、これらの課題を解決することにあります。

少子高齢化社会の到来で、熟練土木技術者が減っており、若手技術者の入職も少なくなりました。減少する建設従事者や熟練技能者に代わる生産・管理手段の確保が求められています。ベテラン技術者が抜けた後、生産性の向上や品質管理の確保を、新しい技術によって図る必要があるのです。

1990年代以降、製造業などが右肩上がりで伸びている半面、建設業の生産性も下がり続けたままです。貴重な人材や時間を、より有効・有益なことに活用していかなければいけません。この現状を新しい技術の導入で打破できる部分もあるのではないかと考えています。

労務環境改善という点では、危険を伴う作業からの解放や、「3K」イメージからの脱皮という課題の解決に新しい技術が使えるのではないでしょうか。

情報の受け渡しをスムーズに

1997年から2008年まで実施したCALS/ECでは、ASPによる公共工事の工事情報共有システム、図面や工事写真などの電子納品、そして情報化施工という3つの技術的な成果が得られました。電子入札が実現しました。これらの技術は、CIMに通じるものがあります。

一方、これら一つ一つの電子化は進みましたが、プロジェクトにかかわる情報を一貫的に受け渡すまでには至らなかったのも事実です。例えば電子納品されたデータをCDによって、設計から積算へというように次工程に引き継いでいくことになっていますが、情報が十分に引き継がれていないのが現状です。また、情報化施工で使う3次元設計データは、設計時に作った3次元情報を利用することなく、2次元図面から作り直したりしています。

CIM導入の本質は、情報の受け渡しを一貫して行い、効率化することにより建設生産プロセスを効率化することです。その目的を達成するために3Dによる情報の受け渡しを目指していくことになりますが、あくまでも設計、施工から維持管理までを含めたトータルマネジメントを効率化することが最終目的です。

そしてCIMによって期待される効果は、ICTや3Dによる情報の共有化や流通の促進です。例えば関係者間の情報共有や3D設計による数量計算結果の積算での利用、情報化施工へのデータ引き渡し、維持管理へのデータ引き継ぎ、そして設計変更などの省力化です。

さらにGIS(地理情報システム)で情報を検索したり、マッチングを図ったりできるようになれば、「ここは地元との協議でこのルートに決まった」といったことも、過去にさかのぼって引き出せるようになります。

国交省がCIMを導入する上での課題は、担当者の人事異動にどう対応していくかです。担当者は3年ほどで代わりますが、プロジェクトは進んでいきます。担当者が代わっても、プロジェクト情報を引き継いでいく仕組みが必要です。さらにプロジェクトが完成し、供用された後も情報を補修や更新工事まで引き継いでいかなければいけません。

3Dの強みを設計、施工に生かす

CIMに期待するメリットとしては、(1)情報のシームレスな受け渡し、(2)3次元よる設計内容の可視化、(3)より早く、より安く、効率的に事業を実施する、といったことが考えられます。

特に3次元設計の可視化の効果は大きいものがあります。可視化によって設計・施工のミスの減少や複雑な鉄筋加工の確認、仮設のシミュレーション、複雑なジャンクションの干渉確認、そしてステークホルダーである利用者の理解度上昇などが期待できます。これらは現在ある3次元設計の技術で対応できるのです。

例えば鋼橋の製作現場では、設計図から3次元データを作成し、板取りや加工、仮組みに使っています。コンクリート打設でも生コンプラントでの製造、現場搬入、受け入れ検査、打設といろいろな段階での情報をICタグに入力して、最終的に施工管理台帳と3次元データを組み合わせたものを作っておけば、点検補修記録などと合わせて維持管理に役立つでしょう。

国交省では設計者、施工者と発注者で三者会議を開いています。設計者には耳が痛い話かもしれませんが、国交省が発注した土木工事で開催した三者会議で、設計成果品のうち約4分の1に不具合が出ていることが分かりました。

一番多いのが図面の作成ミスです。つまり図面が現場と合っていないのです。図面にミスがあると施工者が測量や設計をし直さなければなりません。早い段階で3次元による設計を行うことで、こうしたミスも減らせるのではないでしょうか。

CIMは維持管理も効率化する

CIMは構造物などを3Dで表現できるほか、時間軸を考慮した4Dやコスト軸を考慮した5D、さらに環境軸、安全軸を加えた6D、7Dにも拡張できます。構造物の各部分には「属性情報」が埋め込まれて仕様や履歴などを一体的に管理できるほか、設計から施工、維持管理まで一貫してデータを受け渡していけるという特徴があります。

今後、ますます重要になってくる構造物の維持管理業務では既にCIM的な取り組みが行われています。

例えば今年2月に開通した東京ゲートブリッジには、加速度計や変位計、温度計、ひずみ計といった様々なセンサーがネットワークで接続されており、維持管理に役立つデータをすぐに集められるようになっています。

また、国交省近畿地方整備局管内では、トンネルの維持管理に「MIMM(ミーム)」という車両を導入しました。覆工面のカラー画像を撮影する「MIS(Mobile Imaging Technology System)ユニット」と、覆工面の形状を3次元レーザースキャナーで計測する「MMS(Mobile Mapping System)」を搭載したものです。さらにトンネルの3次元データベースを作り、維持管理を効率化することも検討しています。

CIM導入のスケジュールとモデル事業

国交省が今後、CIMを導入していくスケジュールについては、平成24年度の上半期でCIM活用の具体的なイメージを固め、下半期では設計を対象に試行事業を行うとともに、CIMの実用化に向けた技術開発項目や基準の見直しなどを検討します。

既に日本建設情報センター(JACIC)をとりまとめ役とする民間組織で構成された「CIM技術検討会」が7月4日にスタートし、行政においては国交省を事務局とする「BIM、CIM導入検討会(仮称)」が発足しました。今後、CIMの方向性や検討事項などの調整を行う予定です。

試行事業としては設計から施工、維持管理に至るまでのCIMの最終形を目指した「先導モデル事業」と、2Dと3Dの融合で効率化を図りながらでやりやすいところからCIMを使っていく「一般モデル事業」を行うことを考えています。

平成25年度は試行事業のフォローアップを行いながら、CIMの活用を工事に移行させる予定です。技術開発には民間の知見や技術を活用し、国交省はCIMを活用しやすいように制度を変えたり、障害をなくしたりします。そして平成26~27年度には試行事業の成果を反映させてCIMの一般化に向けての基準を策定したいと考えています。


CIMの最新動向を学ぼうと、会場は多数の受講者で埋まった

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