コミック、アニメ、映画等を通じ世界的人気を築き上げた「トランスフォーマー」。近年はCGを多用した映像で、CG関係者の注目も集めています。そんな「トランスフォーマー」最新作が、全米放映中のフルCGテレビシリーズ「Transformers Prime」です。同作はTVアニメの常識を超えた高品質なCGでファンの支持を集め、エミー賞を受賞するなど既に高く評価されています。この「Transformers Prime」を制作しているのが、CG制作会社 ポリゴン・ピクチュアズです。【D-4】セッションでは、同社社長の塩田氏と村本部長をお招きしました。まず登壇されたのは、塩田社長でした。
「当社は1983年設立のCG制作会社です。つまり29年間存続しているわけで、厳しいこの業界でこれほど長く続いているのは、それだけで誇るべきことと考えています。しかも、従業員数350名と規模的にも日本最大級です。そんな当社の大きな特徴が、創立時から推進してきた海外展開です。現在では売上の7割を海外の仕事が占め、ほとんどが大型プロジェクトとなっています。また、制作体制も欧米方式のデパートメント制を敷き、スタッフも2割強が海外の方です。しかし、そんな当社にとっても、際立って大きなチャレンジとなったのが、このTransformers Primeのプロジェクトでした」
なぜ同社にとって、「Transformers Prime」がそれほど大きなチャレンジだったのか。塩田氏は3つのポイントを上げます。まず全世界への配給を前提とした大型テレビシリーズであり、あらゆる面でそれに見合う世界レベルのクオリティが求められたこと。そして、言うまでもなくフルCG作品であり、第1シリーズだけで26エピソードが予定されていたこと。1話あたり22分ですから「22分×26エピソード」で、本編だけでも総計572分。付属する種々の映像を加えると、10時間近いCGアニメーションが必要になります。最後に、それにも関わらずスケジュールはあり得ないほど切迫したものだったのです。
「私のところに話が来たのは一昨年の9月頃。受注は12月でした。制作は翌4月に始まり、同年11月までにまず5話分の納品を求められたのです。普通に作れば1年から1年半かかるボリュームですが、それを実質7カ月で仕上げろと言うわけです。通常では、とても考えられないペースと言えるでしょう。実は、この作品はHubという新興TV局の目玉作品で、その開局に合わせて放映をスタートし、盛り上げていきたいたいというわけです。とにかく当社にとっても最大のチャレンジでした。何しろ、これだけのボリュームをこの短期間で完成させるには、当時の当社の生産力は全く不足していたのです」
「Transformers Prime」のプロジェクト規模から考えると、専任のプロジェクトチームには、最大150名ものスタッフが必要でした。しかも、同社はそのほとんどを全く新しくリクルーティングしなければならなかったのです。こうしたことから、制作開始までの期間中にクリアすべき3つの課題が生まれました。1つ目は、この最大150名という膨大な人員をいかにして確保するか。2つ目は、結果として大きく膨れ上がるであろう外部/内部での膨大な情報のトラフィックをどのように処理するか。そして最後に、このかつてない量産体制をいかにして確立するか、でした。
「採用したスタッフは最終的に100名を超え、プロジェクトチームの約7割をこの新規採用者が占めることになりました。もちろん新人ではなくキャリアのある方を採ろうというのですから、国内だけでは足りません。海外からも20名ほど、主にwebで、CG系の方が集まる掲示板等を使って採用しました。しかし、海外の人材は採用後にも難しさがあります。たとえばVisaの問題や東日本大震災の影響もありましたし、文化や仕事のやり方の違いも避けて通れない課題でした。しかも、これは次のトラフィックの問題にも深く関わってきたのです……では、ここからは村本に話してもらいましょう」
塩田社長に続いて登壇した村本浩昭氏は、この「Transformers Prime」プロジェクトにおいて、新しいトラフィックの確立と制作体制づくりを主導した方。同氏は歯切れのいい口調で、まず情報トラフィックの問題について語ってくれました。前述の通り、この大型プロジェクトの始動により、ポリゴン・ピクチュアズ内外でかつてないほど膨大なトラフィックが発生するのは必然でした。しかも、そこでは外国人を含む新規採用のスタッフが大半を占めていたことから、制作に関わるノウハウなど、多種多様な情報共有やそのタイムリーな伝達の重要性が拡大していたのです。
「従来の日本の制作会社では“メールによるコミュニケーション”と“Excelでの情報集約”が主流でしたが、今回はそれでは対応しきれないのが明らかで、何としてもこの従来方式から脱却する必要がありました。そこでまずグループウェアを導入し、プロジェクトWikiで静的な制作情報を蓄積・共有して、後から加わった新規スタッフもスムーズに制作に加われるようにしました。また、ショット・アセットのインフォメーション等、動的な制作情報は制作管理データベースに蓄積。さらに作業タスクの受発注もメール/Excelを止めて、Redmineベースのタスク受発注チケットシステムを導入したのです」
続いて“大量生産体制の確立”では、さらに大胆に制作ワークフローの改善が進められました。村本氏は社内で長年使われ続けてきた、制作のディレクトリ構造にも手を付けました。アセット・ショットを分けてエレメントを上位に置き、個々にユーザをヒモ付けるスタイルへ変更。新たにLookDevステージを導入し、微調整の時間を節約しショットごとのバラつきを無くすことを目指したのです。またレンダシーンマネージャーを導入しコンポジットのツールを変更。マットペイントも最大限に活用します。さらにはAutodesk Smokeによるポストプロセスでのリテイク対応を推進するなど、同社の制作ワークフローは文字通り一新されたのです。――講演は最後に再び塩田社長が登壇し、将来への展望を語ってくれました。
「1stシーズンは無事納品され、チャレンジは成功裡に終わりました。しかし、すでに2ndシーズンへ向け幾つかの課題への取り組みが始まっています。最大の問題は円高です。スタート当時1ドル90円台だったのが現在は76〜77円。14%近い下落です。支払いを円ベースへ切り替えてもらうよう働きかけていますが、それでもさらなるコスト削減が欠かせません。効率化はもちろん海外への外注等も必要でしょう。困難な課題ですが、私たちは1stシーズンで豊富に経験を積み、大変なシーンもいまや大変でなくなっています。必ず2ndシーズンも問題なく完成できる――そう、確信しています」