ユーザー事例
熊本大学工学部建築学科
Revit と各種シミュレーションツールを連携
BIM を新たな建築教育プラットフォームに
Revit を中心に構造解析や環境解析等の解析ツールと連携させながら
建築の物理的な側面をより包括的に教えていく、全く新しい建築教育
BIM による包括的建築教育プログラムの展開
2013年、『 3DCAD 及び解析ソフトを活用した包括的建築教育プログラムの開発とその評価』と題する論文が日本建築学会奨励賞を受賞した。論文の作者である熊本大学の大西康伸准教授が、自ら開発し授業に使い改良してきた内容を「包括的建築教育プログラム」としてまとめたユニークな研究である。
その独自性に加え、他校に応用し建築教育を発展させる内容として高く評価されたのだ。ここで注目したいのはタイトルの「 3DCAD 」。これは AutodeskRevit を指し、この教育プログラム自体、Revit による BIM を教育プラットフォームに活用した新しい建築教育の提案なのである。大西氏は語る。
「このプログラムは、建築学科3年生前期の『デザインシミュレーション』という授業で実践中です。主に建物の物理的な側面を包括的に教えようという授業で、 Revit に構造解析や環境解析等と連携させたBIM をプラットフォームとして使っています」。
実際の授業内容を紹介すると、第1段階で、学生はRevit を用いて著名建築家が設計した現存する建築の 3D モデルを制作。その建築の空間的・構造的成り立ちを学んでいく。続く第2段階では学生を空間アレンジと構造アレンジの2グループに分ける。前者は制作済みの 3D モデルを基に Revit で増改築デザイン案を制作し環境解析も行なう。後者は元のモデルの構造解析を行い、現状案の構造的問題を明らかにするとともに、結果を構造補強案へとフィードバックしていく。こうしたやり取りを繰り返しながら、空間/構造の最適解を求めていくのである。
「授業の狙いは2つあります。1つはオブジェクトCAD による建築手法に慣れること。建築を構成する要素・部品を組合せて建築を作るという考え方に、慣れてもらいたいのです。そして、2つ目は空間を設計すること。図面を描くのではなく、Revit の3次元化機能を上手く使って空間を考えることにフォーカスしています」。2次元 CAD 等で線を引いて設計していく従来の設計手法は、「建築」という行為とは似ても似つかぬ作業だ――というのが大西氏の持論である。それに対してオブジェクトを組合せて建物を作るやり方は実際の建築施工にも近く、建築そのものを学ぶ上で有効な手段だと言うのである。事実、同学でこの授業が開始されて8年になるが、すでにはっきりした変化が現われ始めたという。
「最も顕著な影響は、学生の作る作品の完成度が非常に高くなったことです。以前は途中で力つきて完成できない学生もたくさんいました。課題提出が遅れれば評価もできず困った問題でしたが、従来のやり方では図面やパースもその都度作るため効率が悪く、全体としての完成度は低くなりがちだったのです。
しかし Revit ならば、モデルさえ組み上げれば、断面も平面もいつでも出せるのです」。本来教育で「効率」は余り求められないものだが、 初学者でも一定レベル以上の作品が作れる Revit の活用は、結果として大きな成果を生み出したのだ。そして、これと共に大西氏が成果として挙げたのが、環境解析や構造解析と連携した Revit の BIM 的活用だった。
Revit で設計したモデルの照度解析を行い、設計案にフィードバックする
学生が作った作品は講評会で発表される
BIM をプラットフォームとすることで解析結果もグラフィカルに表示される
結果として、学生たちはそこに大きな興味と関心を持つようになった
業界の BIM 本格化の流れが教育界にも影響
「デザインシミュレーションの第2段階では、 Revitと各種シミュレーションツールの連携を積極的に行ないます。3D で設計したものを対象に環境解析したり構造解析したりすることで、それら全てを可視化できます。それが自分の設計したものなら、このビジュアルはさらに刺激的なものになるのです。自分の設計が物理的にどんな挙動を示すのか? 光はどこから入るのか? 構造的に弱いのはどこで、どう強化すべきなのか? 目に見えて分かる、それが学生の意識を一変させました」。
従来、たとえそれが自分の設計案であっても、ほとんどの学生は、その物理的挙動や室内環境にまで思いが及ぶことはない。しかし、Revit による BIMの教育プラットフォームが、自分の作品の各種解析結果をディスプレイ上にグラフィカルに表示したのを見て、学生たちもこれまで目に入らなかった諸要素に興味を持ち始めたのである。そして「こうしたらどうなる?」「こうするにはどこを変えればいい?」と盛んに Revit を操作するようになったのだ。
「構造力学の基本は学生も既に座学で学んでいましたが、正直それらは断片知識に留まっていました。
それらが、この授業により部分的から一体のものとして視覚的に捉え直された。座学で学んだ知識が実際の建物ときちんと結びついたのです」。まさに、建築の設計手法である BIM を畑違いの教育分野に応用する、という大胆な発想が、このイノベーションを可能にしたと言えるだろう。だがもちろん、前例のないユニークな授業を実現するため、大西氏はその運用面でもさまざまな工夫を凝らしている。
「たとえば、このデザインシミュレーションの開始当初、意匠・計画担当の私に構造が専門の教員と環境工学の光が専門の教員、温熱が専門の教員という4人体制で授業を行なっていました。現在では意匠・計画と構造の2人に絞っていますが、建築に関わる多彩な要素を1つの授業で扱う以上、専門家が結集するのは当然でしょう。手間がかかりすぎるとも言われましたが、今こそそんな包括的な建築教育が必要なのではないでしょうか」。
このような大西氏のBIM 活用の取組みは、建築業界における BIM の普及状況と比べても、大胆に時代を先取りしたものだったことは間違いない。むろんあくまで建築教育のためのものだったが、BIM活用が本格化し始めた建築業界では、いまや大西氏の取組みに対する関心も急速に高まっている。
「数年前までは、学生が面接で “BIM を勉強しています”といっても反応がなかったようですが、一昨年頃から “BIM を理解している人” や “BIM を嫌がらない人”を紹介してほしいという企業の声が届き始めました。今ではゼネコンはもちろん設計事務所からも盛んに来ます。まさに業界がその方向へ向っている、という実感がありますね」。業界のニーズを取り入れた。
BIM 教育が本格的に始まるのはこれからだ。先日も、大西氏のもとに面識もない東京の大学生からメールが届いた。“学校に Revit があるが、教わる機会がないので、Revit のテキストを分けてもらえないか”と言うのである。残念ながらそのテキストは、授業と一体で使うように大西氏が手作りしたものなので、単独では使えない。仕方なく丁重に断わり他の形で情報提供した、と大西氏は苦笑いを浮かべる。
「Revit があるのですから、その学校にも BIM を教えた方が良いと言う認識はあるはずです。ただ、それを教育の中でどう位置づけどう教えるか判断できないのかもしれません」。このような状況があちこちで起こっているようだ、と大西氏は言う。
「BIM というと Revit だけでなくいろいろな解析ツールと連携させたり、施工シミュレーションするなど大きなプロジェクトの話になりがちですが、まずは図面と立体が一体化し連動する BIM そのものの面白さの体験から始めてはいかがでしょう。たとえば誰でも知っている有名建築、それもできるだけ小さくシンプルな建物を、皆で Revit に入力しながら、強力な視覚化機能や 2D / 3D 連携を体験するんです。教育での BIM 活用の入口としては、それが一番だと思います。ぜひ試してみてください」
熊本大学大学院自然科学研究科准教授/博士(学術)/一級建築士
大西康伸 氏
大学は研究教育機関なので教育活動もしばしば研究に接続していきます。特にデータベースを意識した研究を行なう私の場合、オブジェクトCAD もそうした世界へ深く踏み込んで使うため、データベース的側面での精確さや自由度、柔軟性に富む Revit が適しています。BIM 教育のツールとしても、ものづくり全体にわたる製品を作るオートデスクならあらゆるツールが選べるし、教育機関支援プログラムも充実しています。また留学生の「世界共通で使えるツールで学びたい」という要望にも応えられますからね。
熊本大学 http://www.kumamoto-u.ac.jp
- 本 部:
- 熊本県熊本市
- 創 立:
- 1925年
- 学 部:
- 文学部、教育学部、法学部、理学部、医学部、薬学部、工学部
- 大学院:
- 教育学研究科、社会文化科学研究科、自然科学研究科、医学研究科、保健学教育部、薬学教育部、法曹養成研究科
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